会長挨拶
会長就任にあたってのご挨拶
高橋 徹(千葉大学大学院工学研究院)
この度,日本雪工学会2018年度・2020年度総会において承認された理事の互選により,第17期・
第18期,7代目の会長職を拝命致しました。歴代会長の栄誉を汚さぬよう,真摯に務めて参る所存
ですので,どうぞよろしくお願い申し上げます。
前任の沼野会長在職の4年間で,会員数は若干の増加傾向となり,会の財政も健全で,活動を
活性化させ社会貢献に結びつけていく絶好の機会であると認識しています。この機会に,本会を
取り巻く状況を整理し,活動の方向性を提案出来れば,幸いに存じます。
雪害の発生状況
本会は,1981年(昭和56年)に東北から北陸地方に掛けて広域で発生した56豪雪を契機とし
て,当時東北大学で建築防災工学講座の教授だった内山和夫名誉教授が「雪工学研究会」を発足
させたのがその前身です1)。従って,活動の根底には「雪害」があります。近年(最近10年)の
雪害をふり返ってみると,2011年から3年連続で死者が100名を超える事態となっているほか,
今年も死者が116名と,大台を超えてしまいました2)3)。近年の雪害の傾向として,超高齢者社会
を反映し,65歳以上の高齢者が除雪作業中に命を落とすケースが2/3以上を占めていることが特
徴です。積雪地域は日本の平均よりも過疎化,高齢化が進んでいるのですが,これは近い将来日
本全体で起きることが明白な事実であり,万が一雪に対して脆弱な一般地域で雪害が発生した場
合にはより深刻な事態となることが推測出来ます。2014年2月に関東甲信を襲った大雪は,多大
な構造被害を伴った雪害となりましたが,幸いにも災害弱者たる高齢者の問題が前面に出るまで
には至りませんでした。しかしながら,次に首都圏を襲う際には,必ずや高齢者の問題が顕在化
することでしょう。それを少しでも軽減するためにも,雪工学の出番はあるはずです。
他方,人口減少にも拘わらず世帯数が増加している現状において,過疎地ですら中心市街地周
辺では未だに宅地開発が進み,一方で8軒に1軒は空き家であるという異常事態が進行中です。
この空き家問題は,雪害を考える上で避けて通れない問題であり,近年も本誌で特集が組まれて
いることはご存じのとおりです4)。
このように,世界的な温暖化傾向の中でも,現状の気温の変動範囲は十分に降雪をもたらし雪
害となる可能性を残しており,平年の降雪が減って雪に対する備えが脆弱化することとも相まっ
て,なお一層「雪工学」が求められるようになる,とも言えるのではないでしょうか。
学会を取り巻く環境
いうまでもなく,本会の目的は,雪に対するあらゆる工学の発展を図ることを通じて,市民生
活の向上に資することであり,会則の第1条には「この会は雪工学に関する学術,技術の振興と
交流をはかることを目的とする。」と記載されています。ここで言う「雪工学」には,屋根雪や道
路の堆雪,斜面の雪崩などに伴って発生する,いわゆる雪害向けの工学に留まらず,先人の知恵
に学ぶ歴史分野や次世代育成に向けての教育分野,さらには雪を雪室や雪冷房に活用する利雪分
野,高齢者問題をボランティアで解決しようとする社会実装分野など,多彩な分野が挙げられ,
本会で研究委員会として組織されているものも数多くあります。本会としては,これらの活動を
今まで以上に活性化させ,互いに有機的に結びつけるハブ(要)としての役割を担い,今一層の
情報発信と社会への浸透を図ることがその使命であろう,と考えています。
他方,本会を取り巻く環境として,大半の会員はメインとなる他の領域の学会会員であること
が多く,サブとして雪工学会にも参加しているのが実情ではないでしょうか。勢い,日頃の活動
はメインとなる学会で行うことが多くなり,気づいてみれば雪工学会としての活動はそのついで,
になりがちな面があることは否定出来ません。これは学問横断型の学会である雪工学会のような
組織では,当会に限らず起こりがちな問題ではあると思います。このような外的条件の下で,当
会としての活動はどうあるべきなのでしょうか。
雪工学のハブ(要)として
雪工学に関心を持つ異分野の研究者,実務担当者が一堂に会しているのが本学会の強みです。
一般向けの情報発信を援助する仕組みとして,沼野前会長や上村前総務委員長(現副会長)のご
尽力により,出版補助制度が今年度よりスタートしました。間もなく助成第一号が発刊される運
びです。これはまさに学会が情報発信のハブ(要)としての役割を果たしている一例と申せまし
ょう。
これまでの議論を踏まえると,会員同士が,雪工学の様々な課題について,日頃からざっくば
らんに議論出来るような,フォーラム,またはサロンのようなものが構築出来ると良いな,と考
えています。SNS上で会議室のようなものを開くイメージでしょうか。従来のWebによる情報
発信はどうしても一方通行になりがちで,いくらメンテナンスを心がけても,なかなかタイムリ
ーにフィードバックを反映させることは難しいと感じていました。例えば,ASCE COLLABORATE
のページのような感じかもしれません。定期的に今議論されている話題のお知らせメールだけは
届きますが,通常業務にはあまり邪魔にならず,気になった話題の時だけ参加すればOK,とい
うイメージではどうか,と考えています。フォーラム,サロン,会議室,呼び方は追々考えると
して,何かうまい仕組みをご提案頂ける方がいらっしゃいましたら,私か,学会の事務局までご
連絡頂ければ幸いです。将来的には,ここでの議論を元に,一般向けの出版などにも結びつける
ことができれば,学会の活性化にも繋がると思っています。どうぞよろしくお願い申し上げます。